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Vol.9 冬のソナタ現象
『冬のソナタ』という韓国のドラマに熱中し、その話で持ち切りと言うお客様がここのところ何人かいらした。残念ながら私はまだそのドラマを見ていないのだが、彼女らの熱中ぶりがとても印象に残った。さらに夫は知人から、「お宅は『冬のソナタ』は大丈夫?」と聞かれたという話をしてくれた。その人の妻がやはり『冬のソナタ』に熱狂し、子連れで韓国のロケ現場巡礼に旅だってしまったというのだ。

春の訪れと共にこのようなことが多く起こるのだろうか。実は私も先月立春の頃から、かつてイギリスで活躍していたロック・グループ「クイーン」のボーカル、フレディー・マーキュリー(故人)のパフォーマンスにまさに取り憑かれていた。彼らの作品をDVDやCDで何度見たり聞いたりしたことか!月末には熱中が高じて、とうとう自動車事故まで起こしてしまった。しかも3日のうちに2度もだ!いずれも自損事故であったのが不幸中の幸いだったが。 イメージ

脳内イメージ
ようやく最近になって、少し冷静に自分の異様な取り憑かれ様を「冬のソナタ現象」に引き寄せて反省する機会を得た。例のドラマもフレディーの歌声も「ミーム」と呼ばれるモノのひとつと思われる。『利己的な遺伝子』の著者であり、オックスフォード大学の動物学者リチャード・ドーキンスによれば、ミームとはコピーのために使える手段をすべて使用して、自分自身を脳から脳へと複製するすべてのものである。ミームは人の脳から脳へまさに感染する。いったん一つのミームを拾い上げたとたん、我々は選択の余地なく自分の脳をハイジャックされてしまうのだ。ある言葉のフレーズや、何気ないメロディーを耳にしたあと、一日中それが耳について離れず、何度も繰り返し口ずさんでしまう経験を誰もが持っていると思う。ミームとはまさにこのようなモノである。クイーンの例がミームであったことは、子どもがすぐに感染してしまい、保育園の連絡ノートに「毎日楽しそうにクイーンのメロディーを鼻歌で歌っています。」と記載されていたことからも証明される。

ミームには感染したことが自分自身心地よい場合と、非常に腹立たしい場合と両方起こりうる。私の場合の腹立たしい場合の例としては、まったく無意味だと思っているにもかかわらず、『だんご三兄弟』のメロディーがふと浮かんでしまったら、気が狂ったようにそのフレーズが何度も口をついて出てしまい、苦々しい思いをすることもその一つだ。フレディー・マーキュリーの場合は感染したこと自体に、自分自身とても心地よかったため、かえって後始末が悪かったのかもしれない。

ミームは自己複製子のひとつであり、ウィルスと非常に性質が似通っている。自分の複製を増やすためならば、宿主の都合などいっさいお構いなしだ。ミーム理論の主張を読んでいくと、人間の脳自体がミームの巨大な温床として受け取られさえする。ミーム学というミームは果たしてわたしたちにとって好ましい種類のものだろうか?一般的にはかなり不愉快な部類に属するように思われる。 イメージ

いずれにしても今回の一件から私が得た教訓は、「春の病は頭に在り、肝に在り」という言葉をかみしめる必要があるということだ。(実際じんましんにも悩まされたのだ!)季節であろうがミームであろうが、自分の脳は容易にハイジャックされる可能性があるということを常に肝に銘じよう。そしてそのような熱中のさなかで得られる自分の判断なり解釈なりは、単なるこじつけだったり、ねじ曲がっていたりすることが往々にしてあるのだ。自分の脳を自分の支配下に置き、脳内のスクリーンに様々に照らし出されるイメージや、常に移りゆく感心事に足下をすくわれないようにしておくことが重要だろう。先月の自動車事故は、自分の思考力の限界や至らなさをまざまざと思い知る良い経験だったと思う。


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