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Vol.14 浅間山噴火
軽井沢のメインストリートに面するレストランで9月1日の夜夕食をとり、会計で支払いをしているときだった。ばりばりっという音と共にガラス戸が揺れ、窓が開いていないにもかかわらず厨房のしきりに使われている簾が風を受けたようにゆらいだ。

とっさに地震ではない、浅間山だ!と気づいたが、店の人も驚いてうろたえている。私はすぐに道路に出て浅間山の方角を見たが、あいにく厚い雲に覆われて何も見えない。しばらく様子を見ていようかとも思ったが、何か上から降ってきたら大変と、こどもの手を引いて家にむけて歩き出した。途中民家の人々がそれぞれ道路に出て、浅間山の方角を見やり心配そうに言葉を交わしている。近づいて話しかけると、「山の上の雲が雷みたいに光ったよ。こんな噴火は20年ぶりだね。」と教えてくれた。こどもはすっかり驚いてしまい、おとな達に「僕なんか、こわくって足の力が抜けちゃったよ!」などと大まじめに報告している。さらに、「家でテレビのニュースでも見るか」と言って帰りかけたおじさんに、全く知らない人だというのについていきそうになり、パパにしかられてしまった。 イメージ

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噴火に伴う衝撃波が空気中を伝わっていったのが、簾のゆらぎとして直に感じられとても興味深かった。翌朝の新聞で「空振」という言葉を初めて眼にしたのだが、実際に体験したのとこれほどぴったりした言葉はないと感心してしまった。まさに空気が震えるのだ。新聞によれば噴火は午後8時2分だったが、北東に5キロほど離れた浅間牧場で直径2〜3センチの火山弾が降ったのは午後8時50分頃。おそらく噴煙はかなりの高度に上昇し、その後時間をかけて落ちてくるものと思われる。ちなみに1947年8月14日の噴火では、噴煙は高度12キロまで達したとのこと。

今回は雲のため噴煙の高さは確認されていないが、主に北の群馬県側の高原野菜が火山灰のため大きな被害を受けてしまったようだ。手塩にかけ育て、収穫を間近に控えた自慢の野菜が、火山灰にだめにされてしまった農家の心痛はいかばかりかと思いやられる。

その前日こどもと二人で旧碓氷峠の見晴台に上り、浅間山を間近に見て、「浅間山って何かに似てるよね。」と話していた。太陽の光を受けて、イノシシの背中のように茶色く筋肉質な印象を受ける山肌が、真ん中の鼻筋のように隆起した部分とその両脇のくぼみを含め、何か原始に滅んでしまった気高い野生動物の顔のように見えた。こどもは、「僕にはガイコツに見えるよ」と言う。
人間の都合とはいっさいお構いなしに、地球の内部から火口へと向かうマグマの通り道に内在する固有のリズムに従って、噴火や爆発を繰り返している浅間山。その姿勢というかありさまと、野生の誇りを失い、民家のゴミや食料をあさってでも生きのびようとするツキノワグマの生き方が対比されて感慨深い。人間の手によってゆがめられてしまった自然(それには人間自身も当然含まれる)と、それすら自己の力で浄化しようとしているかのような自然本来の営みに、深い感銘を受けたのである。
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