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Vol.23 高原便り3「大気のサーモスタット」
8月13日。ここ1〜2週間軽井沢では、昼夜を問わず毎日何度も雨がばしゃばしゃと降って暑さが一息ついています。夏が短いためか、植物の花の咲き方が変わっていて、初夏の花が秋の花と一緒に咲いています。ツユクサの花がまだ咲いている一方で、キキョウやワレモコウやオミナエシが咲き、ススキが穂を出し始めました。気温はほぼ23℃を境に、1日の間に±5℃ほど変化します。晴れていれば最高気温は28℃にもなりますが、夜は18℃位まで下がります。

 ここでは自然の恒常性を維持する機構がうまく働いていることを実感します。昼間、空が晴れて暑くなると、ぐんぐん樹木や土から水が蒸発してむくむくとした巨大な雨雲をつくり、おそらく気温か日照か何かの加減で、それが大雨となって再び地に降り大地を冷やします。
雨の後でまた少し気温が上がると、あたり一面何も見えなくなるほど霧が出てきます。いつの間にか静かに雨が落ちて霧は晴れ、また日が射して空が明るくなったかと思うと一気に晴れ上がる。
そしてまた水がぐんぐん蒸発して・・・と、何度も繰り返すサイクルがあり、人や動物が過ごしやすい一定の状態が保たれているのです。

 暖房用のオイルヒーターなどによく使われますが、決まった温度まで上がると自動的にスイッチが切れ、反対にある温度まで下がるとスイッチが入るような仕組みを、サーモスタット(恒温)機能と呼びます。ここでは大気のサーモスタットが、気温28℃・湿度80%のあたりにセットされていて、そこへ到達すると大気の状況が一変してすべてがリセットされる。リセットの後は日中であれば気温25℃湿度70%くらいに落ち着く。そんな感じです。

 日照、気温、気圧と大気中の水蒸気圧とがかみあって、このシステムはうまく働くのでしょう。中でも太陽の光は特に重要な要素だと感じます。これがなければ、大地に落ちた水がガスとなって大気中を上昇していくという、そもそものサイクルのはじまりも作動しません。

 東京のような大都市で、ヒートアイランドとも呼ばれる気象現象が問題になっています。大気のサーモスタット機能が何らかの原因で壊れてしまい、どんなに温度が上がってもスイッチが切れない。一日の終わりに、その日の暑さを洗い流すような夕立すら来ないのです。気温・湿度ともにリセットされないため、延々と湯船につかっているような暑さが続き、とてもエアコンなしでは眠れない状態になっています。

なぜ都市部で大気のサーモスタット機能が壊れてしまったのでしょう。そもそも自然が大きな変動を避けてある一定の状態を維持しようとする働きは、実に精妙なフィードバックの機能に基づいているのです。フィードバックとは電気回路などが出力を入力に取り込んで動作を調整するように、結果を原因に取り込んで全体の働きを調整することです。

 自然がフィードバック機能をフルに働かせて、その環境を生命が生存しやすい一定の状態に調整するのに欠かせない要素は、おそらく樹木に代表される植物です。植物はたっぷり蓄えた水を、外気の状態に合わせて放出したり、あるいは光合成の原料に用いることによって、まさに自然界という大きな回路の入力装置として働いているのです。植物が水分を貯蔵あるいは放出したり、利用したりする働きは非常に精妙で、無機物である土砂などにとても真似できることではありません。

東京の夏を救うためには、大規模な植林をおこなう以外に方法はないように思います。



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