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Vol.40 勉強ギライ
 今日もネコ隊長は学校から帰ると、ひとまず軽く腹ごしらえをしてから宿題をはじめます。最近は漢字の練習以外に、ときどき算数のプリントが宿題に出されることがあります。そこには3桁のたし算が35題ほど並んでいます。

 初めの10題ほどを終えて、「ああ〜ボク勉強なんか、だいっきらいだ!」と、さもうんざりした様子で吐き出すようにいいました。それを聞いていた私は、「あたりまえでしょ!勉強の好きなサルがどこにいますか?!」と言い返しました。さらに追い打ちをかけるように、「そもそもずっと森にいれば何にも不自由しないのに、たまたま変わり者のサルが『外には何があるんだろう〜』なんて変な気を起こして森を出ちゃったから、その子孫のあんたたちが勉強しなくちゃならない羽目になったのよ!」と両手を振り回して叫んでしまいました。

  ネコ隊長は明らかに納得がいかない目でじ〜っと私を見ています。私はさらに声を大きくして、「だってそうでしょ!ずっと森にいてサルのままでいたら、勉強なんかしなくても食べ物にはちっとも困らなかったはずじゃないの?」と言いつのります。ネコ隊長はまだ不審そうな醒めた目をして「何で?」と聞きます。「だって森には果物だって何だってたくさんあるじゃない!」と、私。「うんそうだね・・・。」と答えたネコ隊長は、決して私の話に納得したのではなく、またいつものママの訳の解らない話がはじまっちゃった・・・、という半ば諦めの表情を浮かべています。

 私は、ネコ隊長の宿題をすっかり邪魔していることも忘れて、さらにしゃべり続けます。「そのサルが森を出ちゃったのは今からだいたい100万年ぐらい前だけど、まさかその結果が人類の出現になるとは思ってもみなかっただろうねえ〜」だの、「ヒトもいつか『あの空の向こうには何があるんだろう〜』なんて言って、地球を出たくなるんだろうね〜」とか、「そしたら100万年後くらいに土星あたりで、『ボクはこんな勉強だいっきらいだ!』と叫んでる宇宙人の子供がいるかも知れないねえ。こ〜んなクラゲみたいな足でさ〜!?」など話は一向に止まらなくなりました。

 その間ずっと仏頂面だったネコ隊長が、その宇宙人の子供に共感したのか急に笑顔になり、(ネコ隊長)「そうだ!あの頭のでっかい何とか人だよ!」、(私)「ああ!ボゴン人!?」、(ネコ隊長)「ちがうよ、ベルセレボン人だよ!」。ベルセレボン人とは、1981年に放映された『銀河ヒッチハイクガイド』というわたしたちのお気に入りのイギリスのテレビドラマに出てきた宇宙人のことです。彼らは銀河系で最も高度な頭脳を持ち、静かで落ち着いた文明を誇っていたのですが、ある日突然テレパシー能力という『社会病』を病んだために、自分の心を他人から隠すためお互いに絶えず大声でおしゃべりし続けなければならなくなってしまったという気の毒な人々です。

実にわたしたち人間も、森を捨てたサル以降いつのことかは知りませんが、言語や論理的思考といった特殊な能力をたまたま獲得してしまったために、「文明」というやっかいなもの(社会病?)を、肩に背負い続けていかなくてはならない羽目に陥ってしまったわけです。ヒトの大脳皮質を、今まさに成長させている真っ最中のネコ隊長が、言葉や論理的思考など文明のいわば道具の取り扱いに十分に通じ、それを思い通りに使うことができるようになるまでには、まだしばらく『勉強』という退屈な単調作業にさく時間が必要なのです。40才を過ぎたわたしでさえ、先人の「肩の上に立つ」という状況にはまだまだほど遠いのが実情なのですから。

 その後、さらに私は人類が地球を捨ててどこかの星で進化することにあれこれ想像を巡らせ続けており、ネコ隊長は「しょうがないや。」という顔でまた宿題にとりかかっていました。



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