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物理のかたりべちゃん


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第14話 ゼロの発明

January 20, 2005

0,1,2,・・・どこまでも続く数。これらの数がリンゴや小石や犬などの具体的なモノ達との直接の関わりを絶って、それ自体が抽象的な<数そのもの>になるまでには長い時間がかかりました。このことは第9話「数学的構造をめぐって」でもお話ししました。

わたしたちはあまりにも今の算術(算数)の考え方になれてしまっているので、<5>と聞いても5匹の犬ではなく、足したり引いたりといった算術の対象としての<5>を自然に思い浮かべてしまいます。けれども、このような<数そのもの>の算術的な操作を可能にしたのは、今では当たり前に使われている「位どり式記数法」とよばれる数の表し方を古代の人たちが発明してくれていたおかげなのです。この方式では例えば<372>という数字のうち、3は100の位、7は10の位、2は1の位を表しています。この表記法は簡単であるうえに、何と言っても計算をとても簡単にするという功績がありました。これをローマ数字で書こうとすると、CCCLXXIIとなり、こんな表記での掛け算は考えただけでも面倒くさそうです!
 
この位取り記数法では、ある位が「空」であることを何らかの方法で表す必要があります。例えば<101>という数で、もし0(ゼロ)を表す記号がなかったら<11>となってしまいます。これは大変紛らわしいことですね。すでに後期バビロニアのくさび形文字の中にゼロは萌芽的な形で現れているそうです。しかし系統的にゼロを導入したのは紀元6世紀頃のインド人でした。これによって位取り記数法は発展することができたのです。

古代インドの数学者ブラフマーグプタの主要な功績は、初めてゼロと負の数(マイナスの数)を扱うための規則を体系的に示したことです。さらに紀元9世紀頃に現れた数学者マハーヴィーラはゼロがかかわる次の算術規則を記しています。

a+0=a, a-0=a,aX0=0
一方a÷0はどう扱うかはまだ知らなかったようです。一方バースカラ(1114-1185?)は既に次の規則を上げています。
a÷0=∞

このようにして古代インドの数学で初めてゼロが数の体系に組み入れられ<数そのもの>になりました。ちなみに0それ自体は「無」であり、サンスクリット語(古代ヒンドゥー語)で0は<空虚>(Cunga)と呼ばれたそうです。ゼロがこのようにして発見されたことはとても面白いですね。古代インドの哲学はとても興味深く、かたりべちゃんも高校生の時に現代物理学かインド哲学かで進路を迷った時期がありました。おまけに古代インドの数学者は数学を韻文で著していたそうです。

<あの蜜蜂の群れをごらん 半数の平方根の蜂たちが
ジャスミンの茂みに翔びたってしまった 
群れの9分の8はあとに残っている
そして雌蜂が1匹 蓮の花のなかでブンブンとせわしない1匹の
雄蜂の周りを翔びまわっている
花の香に引き寄せられて 彼はその中へと入っていったけれども
夜ともなって ああ 雄蜂は閉じこめられている!
告げて下され 至高にまで麗しきご婦人よ
あの群れの蜜蜂たちの総数を>

こんな数学の試験問題があったら・・・なんて数学はロマンチックなんでしょう?そうは思いませんか?!

参考文献
「ソビエト科学アカデミー版 数学通論I」、遠山啓監訳、商工出版社(1958)
「タレスの遺産---数学史と数学の基礎から」、W.S.アングラン他著、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社(1997)



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