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Vol.6 冬鳥の渡り
この秋、雁の群れが飛んでゆくのを実に何年ぶりかに見た。大群がカギになって飛んでいた。
10月下旬の夕方、落葉のためずいぶん見通しが良くなった木立をとおして、空を見上げながらこどもとふたり散歩している時だった。

その後一ヶ月ほどして、今度はコハクチョウらしい大きな水鳥が6,7羽で一列になって飛んでゆくのを見た。シベリアから家族ではるばる渡ってきたのだろうか。いったい彼らはどこで冬を越すのだろう?
それにしてもこれまで何年もの間、秋の夕暮れに空を見上げもせず、いったい私は何をしていたのだろう。それとも最近では、冬鳥の渡りを見る機会はめったにないことなのだろうか。
鳥と言えば一年中目にするカラスやスズメばかりで、それ以外になると名前がさっぱりわからない。たしか去年の冬、後頭部がこどもの後ろ頭の寝癖にそっくりなので興味を引かれ、ようやくムクドリの名前を覚えたくらい。

渡り鳥イメージ

ガン・カモ類について調べてみると、それだけでも私たちの身の回りの自然について実にさまざまなことに気づかされる。枕草子の「秋は夕暮れ・・・」をあげるまでもなく、雁の渡りは古来日本の秋の風物詩だった。ガンの仲間ヒシクイ・マガン・コクガンの3種は日本文化に貢献したとして国の天然記念物に指定されている。

冬イメージ
しかし環境庁のレッドデータリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物のリスト)のうち1998年6月に改訂された「鳥類レッドリスト」によれば、ヒシクイは絶滅危惧II類(VU)、マガンも準絶滅危惧(NT)となっている。前者は「絶滅の危険が増大している種」であり、後者は「現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては『絶滅危惧』に移行する可能性のある種」となっている。インターネット自然研究所RDB図鑑では、環境省がレッドデータブックに掲載された野生動植物のうち日常なじみの深い種を掲載している。ちなみに鳥類では有名なトキ(野生絶滅)以外にも、コウノトリシマウクロウなども絶滅危惧IA類となっている。

ガン・カモ類に話を戻せば、繁殖地はロシアのエニセイ川流域より東側のシベリアから極東までと、北米大陸のアラスカ。冬を越すため中国から日本までの中緯度地域に渡ってくる。渡りは夜が中心で、なんと星座を見て方向を見定めているとのこと。さらに日本での越冬地もガン類ではたいへん局地的になってしまっており、太平洋側では宮城県以北と霞ヶ浦周辺のみ、日本海側では琵琶湖北部より北の地域と宍道湖・中海周辺のみというのも驚きだった。

しかし何よりも私にとって一番の驚きだったことは、今までまったく冬鳥の渡りなど気にとめていなかったのに、彼らは何万年も、いや何億年も前から毎年毎年決まった時期に、同じ道筋をたどって渡りを繰り返していたということだ。気づいてみると、そこに営々と繰り返されている自然の営みが揺るぎないものとして存在しており、それは自分が気にとめようがとめまいが関係なく厳然としてそこにある、そういうことが自然の中にきっと他にもいくらでもあるのだろう。
だがいったんそれに気づいてしまえば、もう秋の夕暮れの空は私にとって今までの空とはまったく違ったものになっている。今、実際にはない大きな矢印が北から南の空に向けて浮かんでいるようにさえ感じられる。たとえてみれば、隠し絵を最初に見たときにはただの点の固まりとしか見えなかったものが、いったんその中に隠された図形を見つけてしまうと、もうその図形を見ずには済まされなくなってしまうことに似ている。

冬イメージ

冬空イメージ
冬鳥の渡るその、空。たとえ通過点にすぎないかもしれないが、今年から私にとって東京の空は今までの空とは全く違った空なのだ。
さっそく鳥の図鑑と双眼鏡を購入してバードウオッチングを開始する。近所の木立に一羽のツグミを見つけることができた。大きさはヒヨドリくらい。そしてオナガの背中は実に素敵なライトブルーだった!「知る」ということはまさに自分が変わるということなのだ。


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