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Vol.15 夕焼け雲
「空気が層になっている。」先日素晴らしい夕焼けを見ながらつくづく思った。夕焼けは私の大好きなものの一つだが、不思議に上空に雲がないと美しくない。上空の雲と地表面の間に、澄んだ空気の層がサンドイッチ状に挟まれている。沈んでゆく夕日は上空の雲にビルや建物などの様々な人工物の影を映し出し、刻々と新しい色彩を生み出す舞台の演出家の様だ。
我が家からはこの時期、夕日の沈むまさにその場所が高いビルの死角になるため、かえって雲に反映する光の色の変化が細かく観察できるのだ。始め金色の溶岩流のようだったのが次第に赤みを帯び、これ以上はないという程の深紅を経て、錆びた暗赤色へと終焉していく。一方、挟まれた空気の層は始めエメラルドグリーンに光っていたのだが、すでに深い群青色に沈んでしまった。その間およそ半時間。見終わってやはり地上にこれに勝るショーはないと確信する。
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深紅のあらゆる濃淡のパレードのなかで、雲の下の縁(ふち)を見ていると実に興味深い。決して人工物には見いだされない複雑な線を描く雲と空気の境界は、そこではっきりと層を隔てているように見えるのだが、やはり近づいてゆけばいつとはなしに霧か雲のなかに入って行くことになる曖昧な場所なのである。飛行機が離陸したあと雲の中に突入する時には速度が速すぎて、あっという間にあたり一面真っ白となってしまう。けれども夕焼けをぼんやり眺めている時は、私の心の目はヒバリのように徐々にその境界へと近づいていき、いつの間にか濃くなる霧の中を上へ上へと上昇していく。

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遠くから振り返ると、それ以前と以降をはっきりと隔てている人生の局面も、渦中にある時はそうとは気付かずに過ごしていることの方が多い。何事につけ、意識して一線を画するのは至難の業である。様々な色彩で構成されている雲や空気の層の縁をつくづく眺めていると、一方向に進んでいく時間ではなく、あらゆるものが同時に層(相)をなして存在しているという、非日常的な時間の感覚にとらわれることが多い。そしてその層を隔てる縁(ふち)そのものが、私にとっては常に不思議で魅力的なのである。近づけば消えてしまうのだが、身を引き離して初めて見いだすことの出来る境界。まさに「縁は異なもの」ではないか。


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