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Vol.18 段取りについて
最近あることがきっかけで、つくづく「仕事」とはいわゆる「段取り」に尽きるなあと深く思い至った。段取りや仕切が悪いと、ある目的に到達するのにとても遠回りをすることになったり、周りの協力を得にくい、さらにはいったい何をしようとしているのか他人から皆目理解されないという結果になることは周知の事実。たとえば大工さんが家を建てようとした時に、まず土台をつくって柱を立てるといった一連の仕事の段取りがあるが、これがもし、まだ土台もつくっていないのに屋根の装飾ばかりに異様に夢中になっていたら、それこそ家は建たないか、あるいはもし建ったとしてもとても効率の悪い建て方になるだろう。そんな大工さんには誰も仕事を頼まない イメージ

仕事上の話ではないが、私も先日いつもの段取りの悪さから周りの人に多大な迷惑(?)をかけてしまった。子供の保育園の「成長お祝い会」に父母の余興で合奏をすることになり、日曜日に自宅で練習を行うことにした。そこで「楽団員募集」のビラを保育園の掲示板に貼りだしてもらった。ここまでは良かったのだが、希望者が予想外にたくさん集まり、当日ふたを開けてみると、なんと大人12名子供12名がいちどに我が家に集まることになってしまった。まあ何とかなるだろうとタカをくくったのがいけなかった。当日集合時間3時になって男の子がまず4人ほどお母さんたちと一緒に集まった。そのあと玄関に新しく仲間が現れるたびに、我が家の廊下をこの6歳の子供らが大挙して「ダダダダーッ」と走って出迎えることになってしまい、その足音の騒音たるや想像を絶するものがあった。

ようやく全員が集まっていざ練習開始、という段になって階下の人がついに苦情を言いに玄関の呼び鈴を「ピンポーン〜」と鳴らしたからたいへん。子供ら全員が再び玄関へ向け「ダダダダーッ」と走って集結し、私はその後ろから「すみませ〜ん!すみませ〜ん!」を連呼するという事態。他の親たちも何となく気まずくなってしまうし、子供らをあわてて外に遊びに連れ出してくれたひとりのお母さんのお陰で、ようやく肝心の目的である合奏練習をほんの数回ほどすることができたのだが、これもいつまた苦情が来るかと実に冷や汗ものだった。

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私は本来段取りが苦手だ。その時々に夢中になったことにいきなり走り出してしまい、そのたびに周りに心配をかけたり迷惑をかけたりする。しかし、もっと若い頃には5年先や10年先の自分をぼんやりと夢想して、必要とあらば何ヶ月にも渡る準備を怠らないという計画性も備えていたはず。ちなみに大学で物理を学ぼうと思い立ったのは、一生楽しめそうなことが学問としては自然科学にあるという狙いがあったためで、決して高校でいわゆる理系の学科が得意だったからではない。もともとは漢文や古文が好きで、大学受験の最中も最後まで国文科への未練があったほど。そうして物理の研究を始めたところまではよかったのだが、その後いつの頃からか仕事の段取りや根回しや仕切といったこと自体に振り回されて、本来の目的が何だったのか解らなくなった時期もあった。

私の場合はそのような段取りが過度になると必ず病気をするので、つくづくといわゆる「仕事」には向いていないことが解った。だが、一筋縄ではいかない、ややこしく大がかりな問題と長期にわたって向き合っていくためには、段取りや仕切は実際何の役にも立たないのだ。自分の心に深く根を下ろした好奇心と、その問題に対する情熱を長期間燃やし続けることこそが重要なのだ。

日曜日のどたばたのあと、息子と「仕事って要するに段取ることなんだよね〜。」などと話していると、彼も昨年通った幼児教室で、画用紙とモールで猫のおもちゃを造る際に、十分に段取りについて教えられたそうだ。曰く、「まずハサミで切って、クレヨンで色をぬって、セロテープを貼って、モールを通して、折ってねじって、・・・出来あがったら箱に道具を片づけて、・・・(中略)・・・おしゃべりしないように教室を出て、一階の教室に降りて、荷物がある人はそれを持って、そのあとお母さんが迎えに来たら一緒に帰るんだよ〜。」これら一連の指示をいっきに思い出して語るではないか!驚くべきことに、そこでは目的は何だか解らないまま、段取ること自体が目的になってしまっているのだ。 イメージ


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