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Vol.32 火球と夜桜見物
 3月29日の夜、八分咲きの桜を眺めながら近所のレストランで家族で夕食をすませ、いい気分で遊歩道の桜並木を歩いて自宅へ向かう途中だった。見事な桜と、ついでにいつものことながら夜空の星を見上げながら歩いていると、突然西の空からものすごい明るさの光が現れ、頭上をゆっくりと横切っていくのが見えた。前を歩いていた夫とネコ隊長を、「あれは何だ!今何時だ?」と叫んで呼び止めると、夫は腕時計を見て「8時25分!」と答え、ネコ隊長は「でっかい流れ星だ!」と歓声を上げた。


 その光は真っ白に輝く尾を引いて東へ向かっていく。およそ20秒後には自宅があるマンションの陰に見えなくなってしまった。「隕石が千葉沖に落下するかもね。」と私が言うと、夫も「音が全然聞こえないから飛行機ではないね。」と同意した。明るさは宵の明星(金星)よりも何倍も明るく、色は桜の花びらのようにかすかに紅がかった白色で先端がオレンジ色だった。


 隕石に限らず、人工衛星やスペースシャトルのような人工物も、地球の大気圏に突入する際に高温になり、たいていは地表に達する前に燃え尽きてしまう。スペースシャトルは耐熱タイルで機体を覆うことでこれを防いでいる。燃え尽きずに落ちてくる隕石による被害は、陸上では森林火災を起こすなど甚大であるが、地球は大気のおかげでそのような被害からある程度守られているのだ。一方、月のように大気のない星では隕石の直撃を受けるため、表面があのようにボコボコになってしまっている。

 わたしたちの興味は、もっぱらあの流星はどのくらいの高度を飛んでいたのかと言うことだった。音が全くしなかったのが実感としてとても不思議だったからだ。翌日の朝刊で同じような目撃情報が国立天文台などに多数寄せられているとの記事を読んだ。お花見でわたしたちのように外出している人が多かったためだろう。このように明るい流星は特に「火球」と呼んで区別され、1年に数回は世界のあちこちで目撃されるという。さらに日中でも目撃された例が過去にはあるとのこと。私が最近見た例では、2004年10月17日午後6時33分、西の空に金色の火球が落下して来たと思ったら、「パーン」という音とともにそれが破裂(?)して、緑色に輝く破片がVの字型の軌跡を描いて上方に跳ね返るのが見えた。このときわたしたちは自宅のルーフテラスで焼き肉をしており、夫は肉を焼くのに忙しくて見ることは出来なかったが、ネコ隊長と私は大騒ぎしたのを覚えている。ついでにこの夜は、シベリアから渡ってきたと思われる渡り鳥が、完璧なV字型に編隊を組んで夜空を飛ぶ姿を目撃するという、すばらしいおまけ付きだった。

 アマチュアの天文ファンがつくっている流星目撃情報サイトhttp://sonotaco.jp/ 等でも、今のところ3月29日の火球の軌道計算の話題で持ちきりのようだ。このサイトへの投稿記事によると、分光データから見て落下したのは人工物ではない目算がかなり高い様子。おそらく小惑星か何かだろう。今回は目撃例が多いので、かなり詳しい解析が可能なはずだ。しばらくはその成り行きに私も注目してみたい。どのような組成や大きさの物体が、どのような軌道とスピードで地球の大気に突入したのか、詳しいシミュレーション結果がそう遠くないうちにインターネット上でも明らかにされることだろう。

 ちなみに、日本のアマチュア天文ファンのデータ分析能力は、世界的に見てもかなり高度と思われる。これは、ここ数年デジタル機器の値段が相当に値下がりしたため、高精度の分析機器が一般の人の手に入るようになったからだ。技術革新のおかげで、科学研究分野でのプロとアマチュアの格差が徐々に埋まりつつある。これはとても喜ばしいことだ。自分で解析したデータに対して責任を取る勇気さえあれば、誰でもネイチャーやサイエンスなどの学術論文雑誌に、インターネットを通じて瞬時に論文を投稿できる環境が、すでに現実のものとなっているのだ!現代は宇宙ファンにとって、まさに「上を向いて歩こう」の時代である。



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