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Vol.47 サムライ・ネコ隊長

最近のネコ隊長は黒澤明監督の映画に夢中です。先月たまたま宿泊先のホテルで「七人の侍」を観て以来、三船敏郎が演じる様々なサムライの姿に心酔している模様です。

ネコ隊長はまず、以前から持っていたプラスチック製のおもちゃの刀で、身と鞘をセロテープでつなぎ2倍の長さにしたものを作りました。それから、ワイシャツの袋に入っていた厚紙2枚にカッターで切り込みを入れて蛇腹にし、さらに襟ぐりをカッターで切り、肩をひもでつないで鎧の胴を作りました。余った厚紙を小さく切ってすそまわりのびらんびらん(草摺)を作り、これもホチキスでとめました。腰の周りを合気道の稽古に使う腰紐で縛ると、なるほどうまい具合に主人公の鎧姿にそっくりです。ちなみにオリジナルは『七人の侍』の宣伝ポスターで確認できます。ネコ隊長は工夫してこしらえたこの衣装を身に着け、三船が演じる「菊千代」そっくりに猿のような奇声を上げて廊下を走り回っていました。しばらくして静かになったと思うと、皿に出したリンゴをいすの上にわざわざしゃがんでむしゃむしゃ食べています。三船の演技を実によく観察しているなぁ〜と感心するほど細かいところまで菊千代になりきっています。

また別の日に、私がめずらしく墨と筆でかな文字の練習をしていると、ちょっと筆を貸してくれというので何を書くのかと思って見ていました。ネコ隊長は半紙を長細く切り、6つの「◯」と大きな「た」の字の間に「△」を一つという、これも『七人の侍』のワンシーンに出てくる旗を描いていました。音楽もしっかりしみ込んでいるらしく、テーマ曲のフレーズをつねに口ずさんでいます。この夏休みの間中は、『崖の上のポニョ』のフレーズをご多分に漏れずくりかえし歌っていたのですが、そちらは一気に吹き飛んでしまったようです。音楽は映画の重要な要素だということがよくわかります。テーマ曲のフレーズを聞くと映画の場面がすぐに頭に浮かぶのです。ネコ隊長のように自分の体で再現してみようとはさすがに思いませんでしたが。

それからしばらくして、今度はDVDで『椿三十郎』を観ました。ネコ隊長はこの映画でもよほどミフネがかっこ良かったらしく、背中を掻きながらうつむく仕草をしょっちゅう真似しています。その後突然大発見し、「なんで三十郎が肩をこうやってゆするのかわかったよ。あれは背中がかゆいんだ!」と教えてくれました。たしかに映画の中で、ミフネは何度も着物の袖に腕を突っ込んだまま背中を揺するような仕草をしています。ネコ隊長はその仕草がなぜなのかを、何日も考えていたようです。「そうだよ。三十郎は流れ者の浪人だから、毎日お風呂に入るわけにはいかないからね。」と私が答えると、何を思ったか眉をひそめてさらに考えこむ様子でした。

その後も、『用心棒』の桑畑三十郎、『隠し砦の三悪人』の真壁六郎太など、ミフネが演じる様々なサムライにそれぞれ影響を受けている様子です。しかし、やはり一番のお気に入りは『七人の侍』の菊千代のようです。朝なかなか起きないので、「菊千代殿、朝食の仕度ができました。」と声をかけると、枕元においてある例の長い刀を持ってすぐに起き出し、「ウン、わかった!」などと上機嫌で返事をするほどの入れ込みようです。私はそのようなネコ隊長を見ていると、映画評論家の淀川長治氏が黒沢映画を「ヒューマニズムとイマジネーションの力強さ」と特徴づけているのを、なるほどそのとおりだと思います。「映画のヒューマニズムとはあらゆる人間の特徴を9歳の子供でも真似できるように具体的に描き出すことだ」、などとひとり納得しているところです。



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