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 明日はネコ隊長の誕生日という日、ハイチで起きた大地震による現地の惨状をインターネット上の報道で様々な写真とともに目にしていた私は、久しぶりに憂鬱の暗雲が心を覆うのを感じていました。二人で夕食を食べているとき、それでもなんとか明るい声を出す努力をしてネコ隊長に話しかけました。「誕生日のプレゼントは何にする？」まだネコ隊長はプレゼントを決めかねていたのです。しかし、こういう憂鬱雲が立ちこめる気分の時に限って、不思議なことなのですが、ネコ隊長も気分がとげとげしているのです。「別に何も欲しくない」と不機嫌に言い放つのを聞いて私が唐突に逆ギレしてしまいました。大声で「そうだね！今は誕生日プレゼントに何をもらおうかなんて言ってる場合じゃないよね！そんなお金があったらハイチに義援金送ったほうが、よっぽど意味があるね！」とわめきちらしたうえ、まだ言い足りない気分が追い討ちをかけて「日曜日の誕生会は中止だ！おじいちゃんとおばあちゃんにもそう電話で言っとくから！」と怒鳴り続けました。ネコ隊長は仏頂面でだまったままです。「ハイチの地震見たらさ、神様なんて絶対いないって確信するよね。だって世界でいちばん貧しくてたいへんな国で、よりにもよってあんな悲惨な災害が起こるんだからね！」これには普段から無神論者であることを自負しているネコ隊長はすかさず応じました。「そうだよ！神様なんているわけないじゃん！」突き放すようなネコ隊長の声に少しだけ動揺した私は、お風呂に入って頭を冷やすことにしました。
年末のテレビのバラエティー番組で目にした、お笑い芸人の「何の意味もない！何の意味もない！」というセリフが頭の中をぐるぐると渦巻きます。口に出して「ナンノイミモナイ！ナンノイミモナイ！」と私もつぶやいてみました。その様子がおかしかったらしく、ネコ隊長はさらに身振りをつけて、何度も「ナンノイミモナイ！」を繰り返します。ネコ隊長はそのお笑い芸人（小島よしお）の芸を真似しながら、すっかり調子づいています。私は、何の意味もないのが事実としても、何の意味もないと認めてしまったらかえって生きづらいことは確かだ！と反省しかけたものの、すさんだ気分はいっこうにおさまらないままでした。「結局人間は何の意味もない人生に何か意味があると思い込んでいたいんだよ。わざわざだまされていたいんだね！」とさらに憎まれ口をたたいてその夜はふてくされたまま寝てしまいました。
翌朝生理が来て、昨日の憂鬱雲の原因がはっきりしました。学校へ行く支度をしているネコ隊長に、「今夜の誕生会楽しみだね。」と何事もなかったように声をかけると、ちょっとほっとしたような顔で「うん、楽しみだね。」と答えてくれました。ネコ隊長が出かけた後で、私は恥ずかしい気持ちをかみ殺しながらアメリカのユニセフのホームページからハイチへの義援金を送りました。昨夜逆上した勢いで両親に誕生会中止の電話をかけないでよかったと心底思いました。その後母から誕生会の打ち合わせの電話がかかってきましたが、私は詳細はいっさい省いて「ハイチ地震に義援金を送るから誕生日プレゼントはいらないとネコ隊長が言ってた。」とデマを伝えてしまいました。その夜は親子３人水入らずで鳥の唐揚げ（ネコ隊長の大好物）で誕生日を祝いました。
次の日曜日、私の両親も交えてネコ隊長の誕生会を開きました。大阪にいる義母は、闘病中で東京に来ることは出来ませんが、元気な声でお祝いの電話をかけてきてくれました。私ははりきってシフォンケーキを焼きましたがこれが本当に上手に焼けたので、さんざん自慢してみんなを辟易させました。母に電話で伝えたことをすっかり忘れていましたが、事情を知らないまま誕生祝いのご祝儀を余分に包んできてくれたので、さすがに申し訳ない気持ちがしました。そこで、ケーキを食べながらこれまでのいきさつを詳しく説明することにしました。
（私）「ハイチ地震のニュースを見て憂鬱になった私が、ネコ隊長にやつあたりして逆ギレしたのよ。」
（ネ）「そうそう！『ナンノイミモナイ！』ってママがずっ〜とふてくされててさぁ！」
（私）「そうわかってるんだったらそう言ってくれればいいじゃないの！」
（ネ）「いやぁ、ボクもちょっとイラついてたからさ〜」
（私）「まったく！この親にしてこの子ありだね！」
ネコ隊長と私の会話に、夫も両親もあきれ顔でしたが、私はようやく胸のわだかまりがすっかり消えてゆくのを感じていました。
その後『ナンノイミモナイ！』というセリフは、私たちの気持ちを前向きに立て直すための合い言葉になりつつあります。
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