猛暑の夏がようやく終わり、ネコ隊長の中学受験勉強もいよいよ佳境に入ってきました。 昨日はたまたま水曜日で塾のない日でした。学校でクラブ活動と委員会活動があったため、帰宅は夕方4時頃でした。陸上クラブに所属しているネコ隊長は、この夏には1,500m走の学校代表選手をつとめました。おやつにうどんを食べ、一休みしてから勉強を始めます。夕方6時すぎの夕食のあとも、ふたたび自分から机に向かいました。
国語の得意なネコ隊長。夕食後まずは国語の宿題プリントに取りかかりました。その後算数の演習問題を始めたのですが、苦手なだけにかなり時間がかかっている様子。ようやくできあがった答案を塾の先生宛にFAXで送信します。先生はその答案を1枚1枚添削して返してくれるのです。その後さらに別の算数のプリントに取りかかりましたが、時計はすでに夜の10時近くを指しています。日中の疲れが出て最も眠い時間帯のためか、机に向かうネコ隊長は、もう全くやる気の出ない様子でした。
一方、キッチンでネコ隊長が先ほどFAXした算数の答案を眺めていた私は、間違いをひとつ見つけました。「1から50までの整数をかけたものを6でわり続けると、何回目に答えが小数になるか?」という問題です。ネコ隊長はこれを1から50までの整数の和だと勘違いした様子です。私が「これ、間違ってるよ。直してもう一度FAXしたら?」というと、ひどく憮然とした表情で「めんどくさいからいやだ。」と言います。まあしょうがないかと思い、私は塾のテキストから類題を素早く見つけて、「これと同じ問題だよ。あとでもう一回解いてごらん?」と促しました。ネコ隊長は私がその問題についてさらに説明するのに、ろくすっぽ耳を傾けようとしません。しばらく説明していたのですが、まったく彼のやる気が感じられないため、とりあえず今取り組んでいるプリントが終わってからにしよう、と思い直した私は、やや中腹で隣の部屋で布団に入って本を読み始めました。
15分ほどすると、ネコ隊長が勉強しているはずのリビング・ルームがひっそりと静まりかえっているのに気づきました。ふすまを開けて見ると、案の定机にもたれかかって口を開けて眠っています。まだ宿題の算数プリントが残っているのに!と焦った私は、一瞬頭に血が上り大声で、「なにを寝とるんじゃぁ〜!!」と怒鳴りました。びっくりしたネコ隊長は5センチほど床から飛び上がって目を覚ましました。私はさらに大声で、「眠かったら外を散歩して来い!」と怒鳴ります。時計は10時をまわっています。そのときネコ隊長が思いっきり反抗的な声で「やだ。」とつぶやいたのですからたまりません。激高した私はネコ隊長を引きずり、北側のテラスに面した部屋に彼を連れて行き、「それなら庭に出てやれ!外で勉強しろ〜!!」と叫びました。その夜たまたま帰宅が早かったパパが、携帯でゴルフのレッスン・ビデオを見ながらそこでくつろいでいました。パパは「そんなことしたら風邪ひくし虫に刺されるよ。やめな。」と小声で止めようとします。烈火のごとく怒った私は「それならここで勉強しろ!」と、その部屋に机を運び込み算数のテキストも床に投げつけました。ネコ隊長は涙をぽろぽろ流して泣いていました。
そのままふたたび私は布団に入って寝ようとしましたが、怒りのあまりうなされて朝までろくに眠れませんでした。ようやく宿題が終わったネコ隊長が、その後も彼にずっとつきあっていたらしいパパと話しながら、布団に入る支度をしている物音を聞いたのは夜中の12時を過ぎた頃でした。
翌朝、雨の中を歩いて出勤する間中、子供に無理矢理勉強させようとする不毛さと、ネコ隊長のやる気のない態度とふてくされた様子を見て激高する自分のふがいなさを、くよくよ考え続けていました。激高したのは本当にネコ隊長の態度だけが原因なのだろうか?おそらく中学受験生の子供を持つすべての母親は、このジレンマと今まさに闘っていると思います。あるいは勉強や受験のみに限らずとも、「野菜をどうしても食べようとしない」とか、「トイレをなかなか教えない」とか、「すぐに食べ物をこぼす」とか、ありとあらゆる子供に関する親の悩みやストレスは、みな共通の根を持っているようです。それは、「こどもに良かれと思って私は○○しているのに、その反抗的な態度は何だ!」という一言で表される感情です。自分の面子がつぶされて感情的に怒っているだけなのに、相手のためという美辞麗句で怒りを正当化しようとする醜い自己弁護です。
こどものために良かれと思うのは、親ならば誰もがもつ心情です。だからこそ、怒鳴ってでもたたいてでも、さらには虐待してでもこどもを親の言うとおりにさせる?ちょっと待てよ。今こどもにその行動をとらせなければ、必ず訪れると親が考える『仮の未来』とは、ほとんどすべての場合、親の不安が描く妄想に過ぎません。すべてのいざこざの原因は私の脳の内部から発しているのです!私を含め多くの親たちは、こどものためになると信じてある特定の行動をとります。そしてその結果として親がとる行動は、必然的に子供の反抗を引き起こします。なぜなら、不安や恐怖に根ざす行為は、どうしても暗くて重苦しいものとなるからです。反対に希望や愉しさに根ざすものには、子供は放っておいてもどんどんすすんで参加してきます。
「私の存在自体がネコ隊長の最大の不幸かも・・・。」そんなことを鬱々と考えながら、大学構内の雨にぬかるんだやや登り坂の小径をあるいていると、2mほど先を行く女子学生が突然滑った拍子によろけ、彼女のサンダルが片方脱げて私の鼻先まで飛んできました。「ギョエッ!」と私は心底びっくりしましたが、サンダルはゴム製で弾んだ拍子に大きく跳ねてそこまで飛んで来たらしいのです。まさしく『本当の未来』とは、このような予期せぬ出来事の集合です!!私は大笑いしながら、「意外なことが起こるもんですね〜!」と言ってサンダルを彼女のところへ持って行ってあげました。その女子学生も片足立ちで恥ずかしそうに、「頭に当たるかと思いました!」と答え受け取ったサンダルを履き直しました。
小径の脇で、雨に濡れたカリンがたくさんの青い実をつけていました。