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物理のかたりべちゃん


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第7話 科学の理論


December 15, 2004

世の中には「数学」と聞いただけでアレルギー症状を起こして、毛虫のように毛嫌いする人もあるかと思いますが、それほどたいしたものではないことが第6話「科学の目的」でおおまかにおわかりいただけたと思います。取っ手の付いた<自動作文器械>でしたね。

物理学では理論・法則というのは必ず、いくつかの記号の間の関係を表す方程式の形で表されます。もちろんここで記号というのは自然界のある部分を表しています。パラメーターとも呼びます。世間一般の意味では、例えば「かたりべちゃん理論」という言葉があったとして、それはかたりべちゃんのものの見方とか、うんちくとか内容はかなり曖昧なものでも許されてしまいますね。しかし物理ではそうはいきません。たいていは「微分方程式」といって、いくつかの記号が表している量の変化率どうしの間の関係を表す式であることが多いです。

微分方程式の特徴は、適当な初期条件や特別の場合に当てはまる解をふくむ、<無限に多種多様な一群の問題のすべてを包括しており、また同時にそれらのおののをも代表している>という性格を持つことです。関数(グラフでも可)の束がふわふわ漂っているところを想像すると良いと思います。そして微分方程式を解くとは未知の関数を探すことであり、微分法則から積分法則を導くことです。ただし、これまでに物理学の中で取り扱われてきた微分方程式はそのままでは解くことができないものがほとんどなのですが。

研究者は、はじめ模型=モデルとしてある方程式を数学的にあつかうのですが、もちろんそこにはその人の独創がたくさん入り込む余地があります。最初に何を問題にするのか、計算の途中での仮定や省略のしかた、それらすべてによっていろいろな結論が出てきます。科学の特殊な点はそれらの結論のうち間違ったものは実験によって必ずふるいおとされる、という事実です。そうして生き残った模型がさらに改良され、その分野のさまざまな定量的な予言をすることができて、さらにそれが実験によってテストされてひとつの「理論」となるわけです。この作業は歴史的に見るとおよそ数十年かかるというのが統計的事実としてあります。ここで大事な点はある問題がいったん科学的研究の対象になれば、その問題は必ず解決されてきたという歴史的事実です。科学的研究の対象にするとは、つまりある模型として働く何らかの方程式を見つけることです。

私たちはうまくすれば、一つ一つの現象を「見る」ことができますが、その背後にある法則や理論を理解するのは並大抵のことではできません。科学的研究というのはそのような探求の一つのやり方に過ぎませんが、間違いから学ぶことができるという大きな利点を持っています。普通ひとが「無秩序」と呼ぶものでさえ、その背後にある法則をまだ私たちが知らないだけであって、何らかの方程式によって表される良い模型さえ手に入れば、科学的研究の対象になり、ひいては理論=法則を導くことが可能だといえるでしょう。もしそうなれば「無秩序」と考えられていたものは、実は「未秩序」だったことに私達は気付くわけです。重要なのはただ「どのような質問を発するか」なのです。
 
次回は数学の起源、パターン認識の能力についてお話しします。ではごきげんよう!



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