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物理のかたりべちゃん


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第18話 科学の猿真似


January 26, 2005

かたりべちゃんには様々な友人がいます。大学の同僚や他の専門分野の研究者、画家、音楽家、ネイリスト、Webデザイナー、美容家、クリーニング屋さん、国際線のキャビン・アテンダント、スタイリスト、会社員、通訳、秘書、弁護士、内科医、漢方薬師、整体師、テニスコーチ、専業主婦や子供が通う保育園の働くお母さんたちと園児・・・。それぞれの友人がそれぞれの日々のなりわいと直接的あるいは間接的に関わるありとあらゆるものに、それぞれの興味や関心を寄せています。そして、これらの友人にいろいろな話を聞くのがかたりべちゃんは大好きで、そこからいろいろなことを学ぶのです。

かたりべちゃんは科学者のはしくれとして常に思います。科学的な世界観が与えてくれる「センス・オブ・ワンダー」つまり「驚異に目を見張る心」を何とかして共有することで、これら大好きな友人たちのために何かの役に立ちたい。なぜなら、科学的な研究のアイディアやその方法は学べば学ぶほど人間の精神にとって有効なものだからです。それを取り入れることで初めて、それぞれが関心を寄せている様々なアイディアや技法をさらに改善できるはずとも確信しています。これらのアイディアや技法には、わたしたちの心と体の健康や美に関するものや、生きる目的に関するものがかなりの部分を占めているようです。「マクロビオティック」、「四柱推命学」、はたまたいわゆる「信仰療法?」と思われるものにもかたりべちゃんは興味深く耳を傾けます。素肌の美容法に関してはかたりべちゃん自身、自分のアレルギー体質とうまく付き合っていく上でこれ!と思うものを、今あるモノの中からかなりつっこんで研究します。どんな技法やアイディアでも、それを語るひとが友人である以上、何とかしてそれがもっと改善されるようにさらに研究して欲しいと思うのです。

ところで、第11話「修業時代1」で紹介した、リチャード・ファインマンという科学者は実は「かたりべちゃん」の先達のひとりでもあります。

彼はしばしば講演の中で様々な「疑似科学」がこれほどまでにはびこってしまっている現代社会の状況を糾弾しています。そしてその原因は「科学者が科学を社会と無縁のものにしてしまっている」ことにあると指摘しています。つまりみんながとても遠慮しすぎていて、相手のことを本当に思いやるのであれば当然おこなわれるはずの「話し合い」がないため、結果としてわたしたちの現実の環境は実に非科学的な状況にある。ファインマンはそのような「疑似科学」を痛烈に批判して次のように言っています。

<科学の猿真似がいわゆる専門家をつくる。>
そしてそのような「専門家」の無知を信じることが科学そのものである、とまで言い切っています。


彼は、更に悪いことはそのような状況の中で「人々の知能が次第に蝕まれつつある」ことだと指摘します。昨年のブッシュ大統領の再選はいうまでもなく、誇大な広告や宣伝によって、何かを選ぶときの判断基準が左右されやすいという人々の状況を見るにつけ、かたりべちゃん自身もさびしい思いを痛感します。かたりべちゃんは、ファインマンの言うように徹底的な討論で相手を反駁する、というのは苦手なのですが、文章を書いたり人と会って話をするのは大好きです。最近になって、もっとうまく伝えられたらと思って躊躇することをやめました。それで「物理のかたりべちゃん」が生まれてきたわけです。文章だけで表せることはほんの僅かですし、問いを発さずにはそもそも何かを学ぶことは不可能です。だれでも必要が生じなければ何も本当の意味で学ぶことはできない。かたりべちゃんの役目はせいぜい、この文章を読んだ人や話を聞いてくれた友人が何かの問いを発するきっかけになるものを、雪片のひとかけらほどでも暗示できれば十分果たせるようなものに限定しておきたいと考えています。

何よりも物理のかたりべちゃんに語らせることが、科学者のはしくれとしてのかたりべちゃん自身の「問いを発すること」に必要不可欠なのです。それではごきげんよう!



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