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続・怪しい数の話
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2008/03/06 Thu. 13:32
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前回「怪しい数の話」で、人類全体の嫌われ者であるかのごとく悪口を言ってしまったので、やや虚数が気の毒になりました。それで今回は、虚数は怪しいだけでなく実はとても役に立つ!ということをお話しします。
実数と虚数の二つの部分をあわせた数は複素数といいます。xとyが実数とすると複素数はx+iyとあらわされます。iは2乗すると−1になる数で単位虚数とも呼ばれます。
光の春です!窓の外には光があふれています。かげろうがゆらゆら揺れています。水面に拡がる波紋も光を反射してゆらゆらたゆたっています。この世界には周期的なふるまいをするものや振動するものが本当にたくさんあります。身近な例では、光や音、水の波、吊り橋も揺れています。今年の冬は寒かったせいか、先月は電気代がたいへんでした。家庭用の電気も50ヘルツの交流ですから、1秒間に50回も揺れています。
さらにミクロなものでは、原子や分子、電子や陽子といったものもみな振動しています。反対に非常に大きなものでは、太陽の活動が11年周期であるとか、天の川銀河全体は何億年もかけて一回転することなど。そもそも一日も一年もみな太陽の周期的なふるまいからもとめられた時間の単位でした。
このような周期的なふるまいは、サインやコサインといった三角関数でうまくあらわすことが出来ます。ただし、三角関数の微分方程式を解くのはやや煩雑なのが難点です。もちろん微分方程式なんてそもそも解かずに眺めているのが、一番煩雑でないことは確かです。しかしそれだと何も予測できませんので、やはり必要なときはなるべく簡単な方法で解を求めたいというのが人情です。
ところが先に挙げた複素数を使うことによって、振動するもののふるまいをあらわす方程式が劇的に簡単に解けてしまうのです。詳しいことは言いませんが、これは微分が単なるかけ算に化けてしまうという事情のお陰です。
はじめて虚数を発見した人も、その事実を受け入れたくなかった人たちも、はじめはどちらもまったく予想だにしなかったことでしたが、複素数を使った関数が音響工学に代表されるような華々しい応用を遂げ、そのお陰でわたしたちの生活がより心地よいものになったことは事実なのです。
たった4枚のCDで、バッハの「平均律クラヴィーア曲集I・II」が全曲聴けてしまうのも複素数のお陰です。病院でも、CTスキャンやMRIなどの検査をすれば、ただ寝ているだけで全身を輪切りにした絵を映すことが出来るようになったのも、みな複素数のお陰です。さらにあげたら切りがないほどです。
数学は完全な抽象の世界を、足のないお化けのようにひた走り続け、自律的に展開し続けていくのですが、いつ何時、わたしたちの生活をより心地よくしてくれるような思いもかけない応用をもたらすかは、けっして誰にも予測できないのですね。
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