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牛乳の話
2007/03/08 Thu. 13:53
 わたしは子供の頃から牛乳が大好きでした。しかもかなりの欲張りなので、ようやく言葉を覚えはじめた頃から、母がコップに牛乳を注いでくれるたびに、「いっぱいのタップル」と必ず要求したそうです。牛乳をコップにあふれるほど飲みたかったのですね。

 友人のすすめで、最近話題となっている新谷弘実著『病気にならない生き方』という本を読みました。新谷氏は腸の内視鏡検査でポリープを発見次第切除するという手法の開発者とのことです。友人の推薦の言葉が面白く、「だいたい医者が薬は毒だと言いだしたら、その人は本物だと思っていいよ〜」と言うのです。

 この本で興味深いのは、これまでの栄養学のようにある食べ物のひとつの成分だけを抽出して、その善し悪しを判断するやり方は間違っていたのではないか、という医者からの反省の言葉です。本当にその通りだと思います。なにしろ、薬だってその効果を裏返してみれば毒なのですから。

 さて、新谷ドクターがおこなった何十万件にものぼる腸の内視鏡検査の経験からすると、乳製品をたくさんとる人の大腸の状態はあまりかんばしくないそうです。この本がベストセラーになったため、牛乳が突然売れなくなって困る農家が出てくるのでは?と心配です。牛乳を飲んで大腸に問題ないたくさんの健康な人は、一度も内視鏡検査を受けていないかもしれないということも、慎重に考え合わせなければなりません。ちなみに最近の出来事で、納豆が売れすぎて困ったというのはちょうどこの反対の現象です。こちらは真っ赤な嘘の情報をテレビが振りまいたわけですからかなり悪質です。

 ところで「・・・は健康に良い」とか「・・・は健康に悪い」という情報は正しいとはっきり立証できるのでしょうか?あらゆる科学理論は決して正当化できないことをわたしたちは心しなければなりません。「科学」というとすぐわたしたちは「データを出せ」と要求しますが、どんなにたくさんデータがそろえられても完璧に正当化できる理論はないのです。これは「今どき幽霊なんかどこにもいっこね〜よなぁ」と言い張っても、わたしたちは宇宙のスミのスミまで探し回るというわけにはいかないことからも明らかです。

 たいがいの研究者は自分の理論を裏付けてくれるデータを探します。理論が間違っていることに自分で気付いた場合は、普通は最初から発表したりしません。発表するのは、自分で気付かない点を人に批判してもらうためです。話はかなりそれますが、自分の理論の間違いに自分で気付くことは大切な研究能力のひとつです。しかしこの能力があればあるほど論文は発表できないため、業績がまったくあがらないということになります。それでも研究者として給料をもらい続けるのは、よっぽど勇気のいることです。

 「絶対に確実です!」とか「・・・により立証済み。」などと初めから宣言するのは、科学とは正反対の態度なのです。そういう人には白衣より、はちまきとロウソクが似合うでしょう。どうも最近は、いわゆる白衣を来た人の説明に対し、肯定でも否定でも過敏に反応しすぎる傾向が大きいように感じます。わたしたちはもう少し余裕と自信を持って、相手が誰であろうと、その人の説明の「あげ足をとる」ということが、相手に対する親切だと思うようにしましょう。

 医者が自らをまず治すことが大切です。さらに、この本のように挑発的な理論を世の中に出すことで反論をたくさん呼び起こすことは、科学にとってたいへん良いことです。ただし、わたしたちは失敗するからこそ学べることも忘れてはならないでしょう。「病気にならない生き方」ではなく、「病気を繰り返さない生き方」が大事だと言えます。

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