中学3年生の時、修学旅行で京都に行った。その旅で唯一覚えているのは比叡山延暦寺だ。早朝、大型バスから降りて集合したところに大きな杉の木立があり、まだ朝霧がたちこめる、一面に白い光のなかで見たその杉の木の濃い緑の影が、強い印象で記憶に刻まれている。息子が高校生になり、部活の合宿に出かけるのにあわせて、夫とふたりで旅行しようと計画していたときに、迷わず選んだのは比叡山と大津への旅だった。
当日の朝、わざともたもた支度をしている息子を残してふたりで先に家を出る。
「きっと駅まででも親と一緒に出かけたくないんだね。」
と私が言うと、
「なるほど。それでわざとゆっくり支度してたんだ。そんなにはずかしいのかな?」
と夫もようやく気づいた、という顔で笑っていた。駅の改札で渡されたJRの切符がグリーン車だったので驚く。旦那さん!奮発したのね。フルムーンみたい!二人併せて百歳には三つたりないけど。
のぞみは8号車と9号車がグリーン車だ。品川駅で夫はおにぎり弁当、私は五目いなりを二個買う。それからスタバでコーヒーも買う。グリーン車は席が楽なせいか、京都までの二時間がとても短く感じる。
京都駅に着いた後、八条口近くの大津プリンスホテルカウンターはすぐ見つかった。ここで荷物を預けると午後5時半過ぎには、ホテルに届いているというのが便利だ。ちょっと身軽になって早速JR奈良線で東福寺駅まで行く。そこから京阪電車に乗り換えて出町柳駅までいくのだが、乗り換える時、気温が異常に高いことに気づいた。まだ昼前だったがおそらく34℃くらいになっていたと思う。部活に行くらしい男子高校生達が、駅のホームで「あっちぃ!」と叫んでいたほど。
出町柳駅で叡山電車にのりかえる。この駅には見覚えがあった。二年前に家族三人で鞍馬山に行ったときに乗ったのだ。切符売り場には列が出来ていた。ほとんどの駅でSUICAがそのまま使えるのに、ここだけはだめだった。宝ヶ池駅で貴船方面と二股に分かれていて、今回は八瀬比叡山口駅で降りる。
あらかじめここでお昼を食べようと夫と話していたのだが、少し歩くと川沿いの小高くなったところに茶店があった。外の縁台でおばあちゃんがうちわをあおいでいた。ここで食べることにして、縁台に座ると風がにわかにさわやかだった。
「暑いですねぇ。」と私が声をかけると、
「はい、でも昨日は風がなかったので、もっと暑かったですよ。」とおばあちゃん。私たちはそうめんを注文した。まもなく、そのおばあちゃんがガラスの器に入ったそうめんを運んできてくれた。川風が吹き抜けるのとガラスの器で暑さを一時忘れた。そうめんはだしの味がまろやかで、やはり関東で食べるのと違うなぁと思う。キュウリと紅白かまぼこの薄く切ったやつがのっていた。