にわか雨がザザーと降ってきた。傘を差して石山寺に入る。参道の石畳と提灯が雨に濡れて風情があった。階段がまたもや急で閉口したけど、寺全体が巨岩の上に建ったような格好なのだ。この岩がまた不思議で、ひねくれこねくれて地表にうっかり顔を出しちゃった、という感じだ。西国三十三カ所のすべての観音様のミニチュアを飾ってあるお堂があって、生きている間に、はたして全部行けるのだろうか、と思う。
そこから本堂へいくと、雨が本格的に降り出す。お堂の縁側から裏山が見渡せて、一面の青紅葉だった。目にしみるような緑だ。今日はあわてずゆっくりお参りしてから、御朱印帳に印をもらうことができた。このお坊さんの書は特に達筆だった。石山寺は紫式部が籠もったり、芭蕉が逗留したり、どうやら文学者にゆかりの深い寺らしい。それで御朱印にもセンスが感じられるのかもしれない。
境内にある月見亭から満月をながめるにはちょうど東側が琵琶湖なので、それは風情があることだろうと思う。偶然その日は新月だったが、今度は満月の時に来てみたいなぁ。そういえば夜はお寺に入れないのだろうか?
雨が小やみになったので「子育て観音」と書いた案内札にしたがって林のほうへ行って見る。そうすると鞍馬山にあったような、くねくねと地表を這う大きな根を持つ大木があり、そのすぐ横の崖が一面に土砂崩れしていた。石造りの観音様のお堂の後ろにある大きな岩がついたてとなって、そこだけ土砂崩れをようやく免れた格好になっている。大きな木の根がびっしりとはっているおかげかもしれない。「この旦那さんとあと十年はなんとかがんばろう!」と念じながら、子育て観音に祈る。夫はなにやらずいぶん長時間、熱心に祈っているなあと横から見ていたら、雷がどっかーん!と大きな音を立てて後ろの山に落ちたので、びっくりして走って退散する。後で聞いたら、旦那さんは雷の音を聞いて、子育て観音に「なってない!」と怒られたような気がしたとのこと。なにやら子育てについて反省することがあるらしい。