7月に入っても、私は出来るだけ食事をダイズなどの植物性タンパク質と魚中心にし、大好きなチーズをがまんし、海草とキノコで食物繊維をたくさんとるという食生活を続けていた。そしてストレスを抱え込まないためにはどうすればいいか、ということを常に考えていた。
やはり高校生の子供を持つ友人が、「子供って最大の不良債権よね〜」とためいきをついていうのを聞いて、なるほどと思い夫に話してみた。すると「こどもは投資とかそんなもんじゃない。」の一言。確かにそのとおり。これは自分の情をどうコントロールするかというレッスンなのだ。
子供がストレスの原因だ、とひと言で言っても、その下に横たわる様々な感情は、ひとつひとつ取り出して吟味してみる必要がある。息子のついた些細なウソが発覚した夜、眠れずにうなされながら首の後ろの方が堅くなるほど力んでいることに気づいた。まるで夫の浮気が発覚した妻のようだと、我ながら苦笑してしまった。これでは血管が詰まっても不思議じゃない!
息子をよく知っているある友人に、子供のストレスで脳血管が詰まったのかも、と話してみたところ、
「彼はお母さんに心配かけたくないと思ってウソついたりするんだよ。あなたが思っているより彼はずっと大人だから心配しなければいいんだよ。」
と言われて、それもそうだと思う。それにしても、息子に関する些細なことで、異常に心配したり不安になったりするのは何故なんだろう?夫のことではちっとも不安にならないのに。私の潜在意識は、実は息子より自分を守りたいだけなんじゃないか?息子が親離れして自立していくことが、私にとってそんなに恐怖なのだろうか?子離れは別に不幸な出来事じゃない。
さらに、私は世の中のわりとたくさんの人が難しいと思う問題は簡単にできて、簡単、と思う問題は難しいと感じる傾向があるらしいことが、よくわかってきた。食事療法はそれほど苦にならないけど、たとえば、子供に嫌いなことをさせるということがものすごいストレスになる。
「嫌いなことも出来るように励ますのが、親の仕事でしょう?」
と先日漢方薬の先生にも言われたのだった。
「そうか!それって親の仕事なんだ!」
と私はびっくりしたのだ。そして、
「仕事なら私、やります!」
と宣言したのだった。
その人に、その時々に、どんな課題が与えられるかは、本当にひとそれぞれだ。だから子供にあまり自分の経験を押しつけがましく語っても意味がないのだ。でも人は自分の経験しか語れない。でもふりかえってみたら、きっと何かひとつは伝えられることが残るはず。おそらく、いつか、きっと!?
「好きなことは自分でなんでも出来るようになったんだから、これからは嫌いなことも出来るようになろうね!そうやって励ますのが私の仕事だって!」
はりきって私がそう伝えると、息子は、
「ママがやろうとしてることは、完全自動操縦の機械をむりやり自分の手で動かそうとするようなものだよ。良心があるんだからさ。」
と苦笑しながら言う。本当に自動操縦なのか?自動操縦にしてもハイジャックされているかもしれないし、逆にだれかに操縦されている場合のほうが多いんじゃないか?欲望というのが、その操縦する人だ。これには息子は答えなかった。
9月のスタートは月曜日できりがよかった。しかもこの日は半年ぶりのMRI検査だ。病院はいつもよりすいていた。退院手続きをしている人を2人ほど見かけた。8月に受けた血液検査の結果も出ているはずだったので、私はちょっと期待していた。
MRI検査の後、「どうでしょうか?数値は?」と言いながら診察室に入ると、「すべて正常値です。」と医師は機嫌が良かった。肝機能、腎機能、糖尿病リスクともに正常で、しかもコレステロール値はLDL(悪玉コレステロール)が94と前回の140を大幅に下回る数値!
「優秀じゃあありませんか!」と私が言うと、
「とても優秀です。意志が強いですね!」とほめられた。
「納豆ばかり食べてましたからね〜」と私もだんだん調子に乗る。
「でも血栓予防薬はまだ飲み続けた方が良いと思います。」と医師。
私が心配していたのは、ブラピを飲み続けてだんだん効かなくなってきたりすることだったが、
「ブラビックスはアスピリン剤などと違って、耐性とか効きが悪くなるということがないんです。」
とのことだったので安心した。
最近目の調子が再び悪くなったような気がしたのだけど、これはたんに使いすぎなのかもしれない。この1ヶ月は頭痛もあまりしなかったし。それで肝心のMRAの画像を見たら前回の血管狭窄がなくなって、ちゃんと血が流れているじゃないですか?!治った!治った!とさらに調子づく私。
薬で血管は拡がらない、と断言していた医師もちょっと驚いた様子で、
「コレステロール値が全体で下がると、善玉が回収しはじめるんですよね。」と小声で言う。
「なるほど、廃品回収ですね。」
つまり全体のコレステロール値が減ったために、血管狭窄の原因になっていた悪玉コレステロールまでがきれいにお掃除されて再利用されたと言うことか。
素晴らしい!
自給自足!
自力回復!
これまさに治癒!
などと私はどんどん機嫌良くなる。いつも厳しい顔の婦長さんまで何となく物腰がやさしくなっていて、私はさらにほめられたように感じた。
その日肩すかしだったのは、家族は両手を挙げてよろこんではくれなかったことだ。また調子にのって元に戻らないかと心配しているらしい。しばらくは通院も続くので大丈夫だと私は思うのだが。息子のストレスについての愚痴を聞いてくれた友人は、
「ストレスの原因を自覚しただけで、よくなったのかもね〜。」
とするどく指摘してくれた。
「病は気から、健康は食事から。」とつくづく感じている。
(おわり)